今回は製品のこだわりポイント③として、内部回路とパーツについてお話します。コンパクトな製品ですが、長年の経験を活かして妥協なく理想を追求しました。その想いが伝われば幸いです。
■英国LCR社製のスチロールコンデンサーを採用

【写真】採用したLCR社製スチロールコンデンサー。同じロットでもサイズのバラつきが大きい。例えば写真右側は大きめの例で、この場合、Reference35では使用できない。
我々が提唱する高周波ノイズ吸収回路の中で、コンデンサーは音色を大きく左右するキーパーツと考えています。長年の活動を通じ、多種多様なコンデンサーを使って試聴実験をしてきましたが、お気に入りの一つが英LCR社製のオーディオ用ポリスチレン(スチロール)コンデンサーです。因みにLCR社は、Marshallのギターアンプに採用されていることで有名な会社で、ご存知の方も多いかもしれません。
我々の製品でLCR社のポリスチレンコンデンサーを使うと、音質としては中高域が生々しく美しく、炭酸飲料のような発泡感や豊潤な爽快感が気に入っています。ユキムPNAシリーズでも一貫して採用してきました。音質へのこだわりが感じられる素晴らしい製品ですが、外径のバラつきが±1mm程度と大きく、実質機械実装ができないことから、量産メーカーでは採用が難しいでしょう。
「Reference35」はできる限りコンパクトに仕上げたく、筐体は内寸をギリギリまで詰めました。よって、コンデンサーはサイズを選別しています。我々の場合、幸い、USB KIT-01とKIT-02も製品化していて、これらは大粒のコンデンサーも問題なく収まるので、ロスなく上手い使い分けができています。
因みに使用しているコンデンサーは、リード線が銅材で完全な非磁性品です。また、同じ銘柄でも容量誤差が少ない選別品を調達し、音質の安定化に努めています。余談ですが、日本ではLCR製品を取り扱う業者が無いため、1,000個単位でイギリスのLCR社から直接購入しています。
■アムトランス社製 AMRT抵抗を採用

【写真】採用したアムトランス社製カーボン被膜抵抗。ハイエンドオーディオ機器での採用実績多数。
まず我々が提唱するノイズ吸収回路は、コンデンサーのみも考えられます。φ3.5mmタイプの検討を始めた頃は、小型化を意識して、チップコンデンサーのみで抵抗が無い状態のものが多くありました。しかし、商品企画を経て最上位の「Reference」と考えると、欲が出て抵抗を加えることとしました。抵抗を加えると、低域がより低く伸び、かつ適度に引き締まった音調になるためです。抵抗はアムトランス社のカーボン被膜抵抗「AMRT」を採用しています。余談ですが、パナソニックのSH-UPX01やユキムPNAシリーズでは同じくアムトランス社のAMRGを採用しています。パナソニックの「USBパワーコンディショナー回路」を搭載するプルーレイプレヤーやレコーダー製品では、小型の「AMRT」を採用してきました。今回はサイズの制約から「AMRT」を採用していますが、0.25W品ではなく0.5W品を奢っています。因みに「AMRT」もリード線がOFC素材で完全な非磁性品です。
■ノイズ吸収材パルシャット

【写真】オーディオ用としても人気が高まっているパルシャット。楽音倶楽部では原反(1m幅x10m)を購入し、裁断および両面テープの貼り付けとその圧力を管理。
楽音倶楽部製品で一貫して使用しているのが、非磁性の電磁ノイズ吸収材「パルシャット」です。元来は旭化成の開発品で、現在は三井化学と旭化成が出資する「エム・エーライフマテリアルズ」社が引き継いでいます。
パルシャットとの出会いは パナソニック在職時、発売直後にサンプルを入手し、その音質改善効果も認めていました。しかし、価格に加えハンドリングも難しく、機器の音質対策素材としては使うことが出来ませんでした。
パナソニックでSH-UPX01を開発しましたが、これに巻き付けたところ、音は更に生々しく、鮮度が上がる効果を確認。オーディオ評論家の麻倉怜士さんにも試聴いただいたところ、非常に気に入って頂き、記事「オーディオビジュアルが追い求め続ける芸術表現の哲学――「麻倉怜士のデジタルトップテン」(前編)」でもご紹介いただきました。パルシャットは、確かなノイズ吸収効果を発揮しつつ、磁性体が影響する音の歪感や音の純度の低下がなく 非磁性で音に悪影響を与えないのが特徴で、他に類をみない製品だと思っています。
楽音俱楽部では、ユキムPNAシリーズほか、USB KIT-01/KIT-02、そして「Reference35」でも迷いなく採用し、重要な役割を果たしています。因みに、パルシャットは、主にパーツの表面に滞留するノイズを吸収するという特性を持っています。パーツとパルシャットの距離で音が変わることを確認していて、開発や製造ではチューニングポイントとしてケアしています。接着に使用する両面テープの材質でも音は変わるので、難しくも面白い素材です。繊維の向きも音質に関わるので、モデル毎に大きさのみならず繊維の向きも吟味しています。
■さいごに
「Reference35」の開発ストーリーは今回をもって完了です。ご高覧頂きました皆様、ありがとうございました。愚痴のような苦労話しも多くありましたが、「Reference35」に込めた情熱や想いが、少しでも伝わりましたら幸いです。
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