
【写真】新しいサプライヤーと作り上げた試作品。完全非磁性を徹底することができました。
過去一連のブログでは、着想からの紆余曲折をお話しました。今回からはいよいよ、製品「Reference35」に直接つながる試作品の製作過程や、こだわったポイントをご紹介します。製品に込めた想いが少しでも伝われば幸いです。
■新たなサプライヤーとの出会い
日本国内でプラグのサプライヤーを探すのは難しいと考え、海外に目を向けました。中国では生産が盛んで工場もたくさん見つかりますが、大量生産による低価格品がほとんどです。100円でイヤホンが買える時代ですから、そうした実用品のニーズに応えるものでしょう。オーディオとしての品位や音質を求めるのは難しそうですし、仮に希望通りの仕様で製造できるとしても、ロットあたりの数量は少なくとも数千を要求されて立ち行かなくなるでしょう。さらに調べを進めていくと、台湾にハイエンド品を扱う工場がいくつかあることが分かりました。過去、生産地が日本から現在主力の中国に移る前、韓国や台湾が盛んだった時期があり、その名残のようです。生産規模も中国ほど大きくなく、またハイエンド向けなど高付加価値を打ち出す工場もあり、可能性を感じました。
最終的にパートナーとして選んだのは台湾の南部に工場を構えるA社。銅素材のプラグや各種メッキが扱える上に、自社ブランドのハイエンド製品も持つなど、オーディオへの理解が深いことが決め手になりました。また、台湾人の担当者は日本語が流暢であったり、レスポンスも迅速など好印象でした。日本企業との付き合いも長いのでしょう。
既に我々の希望仕様が固まっていたことや、量産前提の試作品を見せることができたこともあり、台湾のA社は前向きに検討してくれました。詳細の擦り合わせは必要ですが、無名で弱小な楽音倶楽部が取り合って貰えたのは、今までの活動の賜物と言えるでしょう。大量生産ではないため、A社が標準的に製造しているプラグ形状をベースに検討を始めました。ネジ部が小口径のプラグにドーナツ状のパーツを追加することで、必要な内径を確保するという考え方です。
■非磁性のさらなる追求
プラグ部の素材は真鍮ですが、A社は非磁性へのこだわりを理解して、鉄の含有量が低いモノを提案してくれました。実は真鍮は、銅と亜鉛の合金とされていますが、加工性や機能性を高めるために鉛や鉄などが添加されます。「添加」の通り0.05%以下などと微量で、機械部品など一般的な用途では全く気に掛けないレベルでしょうが、オーディオでは音に影響があると考えます。余談ですが、真鍮などの素材には規格があり、その規格では鉄の含有量が「0.05%以下」などのように定められていますが、製造工場やロットによってばらつきがあるようです。安定した製造を望むならは、オーディオに特化した企業に任せるのが良さそうです。
GND接続部に相当するラグ端子(通常のプラグの場合、ケーブルを挟んで止める部分)も、汎用品は曲げても折れ難いスチール製が一般的ですが、Reference35ではプラグと同等水準の真鍮材を採用しました。
また、筐体とも言えるケース部分も、我々の希望通り、非磁性の真鍮や非磁性のメッキを施して製造可能とのことで、同社に任せることにしました。後に問題を起こしてしまうのですが、少量生産でも取り合ってくれたA社に対し、少しでも発注金額を増やして報いようという気持ちもありました。
音質面では、トープラ販売者製のプラグ部分が銅製だったのに対し、今回は真鍮になったことで、材料に依存する音の変化が気がかりでしたが、実際に試作して音色を確認すると、銅とはまた違う、真鍮の明るい響きが感じられて安心しました。完全非磁性を高度に追求したのも功を奏したのでしょう。これなら楽音倶楽部の「Reference」として相応しい音にできると確信しました。
■協力関係でさらなる改善
こうして設計へと進み、その過程では、内部に入れるパーツや組立方法を知ったA社が、内部空間をより広く取れるようプラグ側の構造を見直し提案してくれ、結果として端子と部品の距離が近くなる方向になるなど、改善と言える変更を何度か行うことができました。試作完了後に組み立ててみると、過去の試作品よりもより好ましい音になっていて思わず笑顔になってしまったほどです。構想から既に長い歳月が経過してしまいましたが、費やした時間が報われた気がしました。

【写真】素材は全て真鍮を使用。プラグ部分とラグ端子は添加物「鉄」の含有量が少ない素材を採用しました。
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