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USBアクセサリー開発ストーリー(その3 起業とさらなるこだわり)

さらなるこだわりを持って起業

 パナソニックのUSBパワーコンディショナー単体製品「SH-UPX01」が商品化された後、ほどなくして同社を退職する時期を迎えた。しかし、私には温めてきたアイデアが未だたくさんあり、さらなるUSBアクセサリー製品の実現や情報発信を行うべく、20202月に音を楽しむ人達の集いの場になればと「楽音倶楽部」を発足させた。この屋号には、子供のような好奇心をもって楽しみながら音を良くしようという想いを込めた。

 

楽音倶楽部が始動

 楽音倶楽部としては当初、大勢の方々に気軽に楽しんで貰えるよう、ポータブルオーディオプレーヤーに注目し、Φ3.5 mmステレオミニタイプを考案していた。しかし、個人事業で少数の製造となると、想定以上にコストが膨らんでしまうことが分かった。

 余談だが、パナソニックの「SH-UPX01」(実売価格25,000円前後)は、機能が豊富な家電と比べると割高感は否めないが、高価なパーツをふんだんに使いつつその価格を実現できているのは、大企業による量産効果の恩恵に他ならない。

初心である、大勢の方々に気軽に音で遊んで楽しんで欲しいという願いは変わらないものの、第1号製品を世に送り出すには、方針を再検討する必要があった。

【写真】Φ3.5 mmステレオミニタイプの使用イメージ

 

 

「ユキム」ブランドで製品化

 第1号製品を世に送り出すに際し、製造数量をある程度まとめたり、販売ルートの早期確立を図るべく、協業者を探すことにした。その中で出会ったのがユキム社だ。ちょうど同社がオリジナルアクセサリー製品「YUKIMU SUPER AUDIO ACCESSORY」のラインアップを検討されていた時期でもあり、デモンストレーションの機会を頂いた。

 USBタイプはパナソニック製品として実績があったものの、退職して間もなく同様の製品を製品化するのは義理を欠くようで気が引けた。また、準備していたΦ3.5mmステレオミニタイプも、ユキムが主に取り扱う据え置きハイエンドオーディオとは相いれない部分がある。

 そこで、ユキム社の意向を採り入れつつ、RCAタイプが有望と判断。急遽、既成部品を集めて試作を行い、同社の試聴室に持ち込んだ。結果、音質改善効果と商品性が認められ、製品化に向けて大きく動き出すことになる。

【写真】試作品。左から3つは既成のRCA端子を流用したデモ用の試作品。右の2つはプロジェクトがスタートしてから専用設計した試作品。

 

 

PNA-RCA01のこだわり

YUKIMU SUPER AUDIO ACCESSORY」としてRCAタイプを製品化するに際し、まず、基本方針や仕様を固めた。巨大総合家電企業ではなく、趣味性が高いハイエンドオーディオを扱うユキムブランドで、また、零細な個人事業者「楽音倶楽部」が開発と製造を行うので、効率よりも自分のやりたい事を重視して、とことん拘りたい。

 そこで、基本方針として、以下の4点を決めた。

 

① 音声信号には影響を与えない

これは私の基本方針でもあるが、音声信号の周波数帯域から遥かに離れた高周波ノイズだけを吸収する。

 

② 部品はすべて非磁性

ノイズを吸収するというコンセプトのアクセサリー製品なので、渦電流を発生させる可能性がある磁性体の使用は避ける。金属素材やメッキはもちろん、電磁波の吸収にも非磁性の旭化成「パルシャット」を使う。

 

③ 基板は使わず空中配線

音質への影響の大きい、基板は使わない。

量産品は基板を使わざるを得ないが、少数の手作りなら空中配線が可能。

 

④ 製造する全数を自ら確認

自ら全数を製造し、完成後に音質も確認。不良品を出さないのは当然、製造によるバラつきも抑え、全てのユーザーに自分が考える最高の体験を届ける。

 

PNA-RCA01の決め手は外装

 上記の基本方針を元に試作を繰り返して仕様を詰めて行った。RCA端子部分は、トープラ販売社の銅素材製品に出会い、音質も非常に満足なものだったので早期に確定した。残念ながら同社は202311月に自主廃業するが、PNA-RCA01には欠かせない存在だ。抵抗、コンデンサー、はんだの選定も非常に重要だが、長年の経験を活かして絞り込むことができた。

 そして最後に音を決めたのが、意外にも外装部品である本体筐体(真鍮筒)だった。外装部品が音質に影響を及ぼすことは経験してきたが、材質のみならず、切削した表面の状態でも少なくない違いが表れるのは発見だった。いくつかの工場で試作したが、最終的には大阪の八尾市にある個人経営の小さな町工場に決定。熟練の旋盤職人が非常にこだわりを持って製造し、切削跡が均質。切削油を使わず、鳴き(ビビり振動)を抑えて製造するのは、経験がモノを言うようだ。また、切削後は一つずつ手で拾い上げてキズを付けない丁寧な配慮も。美しく仕上げられられたモノは、見た目だけではなく音質も良いようだ。

 ほか、製造中に発見したのは、パルシャットを部品に貼り付ける際の繊維方向、両面テープの素材、そして圧力までも音調に影響があるということだ。パルシャットはロット毎でもいくらか音に変化を感じたので、旭化成へ出向いて担当エンジニアから話を聞いたりもした。パルシャットは主に部品の表面に帯びた電磁波を吸収する性質があり、部品との距離が変わることでも、音に変化がありそうだ。PNA-RCA01PNA-USB01に使っているパルシャットは、原反を旭化成から購入し、楽音倶楽部で音質確認済みの特定の両面テープを軽く貼り付けた後、最適調整した圧力を加圧してから 使用している。個別材料のバラツキや、製造工程のバラツキを吸収し、全ての製品を納得できる水準に仕上げているので、安心して楽しんで頂きたい。

 

PNA-USB01は念願の非磁性USB端子を採用

 PNA-RCA01は評論家やユーザーから高い評価を得ることができ、日本のみならずアジアを中心に世界に広がった。さらなる展開が期待されるなか、ついに着手したのがUSBタイプ(PNA-USB01)だった。USBタイプは「SH-UPX01」に遠慮をしていたこともあるが、非磁性のUSB端子を使いたいという強い想いがあり、検討に時間を掛けていたのも事実。多くのユーザーは意識されたことが無いと思うが、現存するUSB Type-A端子は、ほぼ例外なくシールド部分(四角い外枠)がスチール製である。お手元にあるUSB端子に磁石と近づけると実感頂けるだろう。この外枠も非磁性素材でできたUSB Type-A端子を探すべく、部品メーカーのスペック表を片っ端から調べた。しかし、ようやく見つかったとしても、実際に取り寄せてみると磁石に吸着されるものばかりで、一時は独自にUSB端子を作ろうと考えたこともあったほどだ。しかし、さらに調査を繰り返して2000品種くらいに達した時、遂に、ドイツ「ウルトエレクトロニクス」社の製品に辿り着いた。シールド部分が真鍮製と唯一無二と言える製品で、施されたメッキがごく僅かに磁性を示すものの、磁石に吸着されることは無い。定かではないか、医療用器具など特殊な用途で使われているモノのようなのだ。実際に試作して音質を確認すると、磁性体と非磁性体のUSB端子では明らかに音が違う。音の純度の違いは目からうろこだった。楽音倶楽部を起業し、端子探しに約2年を費やしたが、非磁性のUSB端子を探し当てて正解だったと確信した。

 

ユキム社製品に関する拘りは、Stereo Sound Online記事でも写真を交えて紹介しているので、是非参照頂きたい。

また、各製品それぞれのより細部への拘りは、楽音倶楽部ホームページ(ブログ)で紹介しているので、この機会に是非併せてご参照願いたい。

PNA-RCA01

PNA-USB01

 

今までとこれから

 ここまでを振り返ると、好奇心から始まったUSBアクセサリー製作は、BDレコーダーの同梱品に始まり、単体製品としてSH-UPX01、そしてRCAタイプのPNA-RCA01およびPNA-USB01へとつながるように広がってきた。これからも、「YUKIMU SUPER AUDIO ACCESSORY」では、「PNAシリーズ」として更に、端子のバリーエーションを増やすなど、ハイエンドオーディオファンに喜んでいただける製品を開発していきたいと思っている。また、USBアクセサリーで当初やりたかったのは、高音質の追究と同時に、好音質、音を楽しむオーディオ文化の提案であった。現在、その志を形にすべく、楽音倶楽部オリジナル製品として、気軽に楽しめるKIT製品も開発中だ。また、この楽音倶楽部ホームページでは、自作情報や既製人気製品のノイズ対策ノウハウも紹介していきたいと思っているので、今後も期待いただきたい。