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USBアクセサリー開発ストーリー(その1 全ては好奇心から始まった~)

すべては好奇心から始まった。(USB端子への懸念)

 2012年にパナソニックを一度退職した後、同社で再雇用の身となった私は、製品開発に加え、自身が興味のあることについて、色々な実験をする時間が持てた。

 現役時代、ブルーレイレコーダーの音質を担当していた私は、外付けUSB-HDDの音質を評価することがあった。機器に内蔵しているHDDに比べて外付けUSB-HDDの音はどうか?

 USB-HDDは明らかに内蔵HDDに比べて悪かった。しかし、その際に面白いと思ったのは、レコーダーのフロントにあるUSB端子とリアにあるUSB端子では全く音が違ったことだ。なぜだ? 機器の内部を見ると、リアパネルにあるUSB端子は、USB3.0ということもあり、電源ラインとGNDラインのパターンは太くて短い。それに対してフロントUSB端子は、電源ラインとGNDラインのパターンは細く、さらに長く引き回していた。

 当然、太いパターンのほうがインピーダンスが低く、電源のバイパスコンデンサーの効果も大きいので、電源ノイズに対して有利である。

 

とにかく作ってみる

 USB電源が音質に影響するという仮説が立ち、これを確かめるべく、とりあえず作ってみる。

 そこで、機器の空いているUSB端子を利用し、外部から内部電源への作用を試みるべく、手持ちのUSBケーブルを切断してコンデンサを取り付けたものを用意した。

 

写真】最初の実験用に作製したUSBアクセサリーの原器

 

 結果は自身でも驚いた。非常に簡単なモノながら、音は面白いほど変わる。また、使うコンデンサの種類でも音色が変わる。とにかく面白い。この試作品を何人かのオーディオ・ビジュアル評論家やライターの方々にお渡しして意見を聞いたところ、総じて好意的な意見が多く、商品化を後押しする意見も返ってきた。仮説に自信を持つと共に、さらなる想いが湧いた。商品化して多くのユーザーに楽しんで欲しいと思うに至ったのだ。

 

社内でプレゼンテーション(デモ)

 具現化への第一歩として、社内でのプレゼンテーションを計画した。簡単な説明資料を作成し、デモンストレーションを行って音を聴いて貰うというものだ。

  当時のオーディオとビデオの事業責任者の元へ自ら赴き、ポータプルオーディオプレーヤーとヘッドホンを用いて、試作品「有り」と「無し」での比較試聴を行った。

  責任者は2人ともあまり音質には拘りがない方たちだったが、2人とも音の違いにびっくりして、その場で「商品化しよう!」という話になった。当時BDレコーダーの事業責任者だった私の上長は企画決裁を済ませ、開発中だった当時の高級レコーダーに同梱品とするよう強く推薦してくれた。余談ながら、実はその時点ですでにレコーダーの商品仕様も決まっていて、機種の担当者はあわてふためいたが、基本的には付属品なので、本体モデルの日程には影響しないということで、「USBパワーコンディショナー」(パナソニックの商標)の開発が始まった。20135月のゴールデンウィーク前後の出来事だった。

 

【写真】幹部に音デモしたモデル

 

商品化への道程

 「USBパワーコンディショナー」の製品化が決定し、正式に開発作業が始まった。

 デモはWIMAのフイルムコンデンサで実施したが、量産に向けてはさらにブラッシュアップを図るべく色々と検討した。様々なメーカーとタイプのコンデンサを試した中で、双信電機のマイカコンデンサが私のイメージにピッタリだったが、さらに、タイプ、耐圧、容量等でも音が大きく異なるので、サンプルを用意して試聴を丹念にくり返し、製品に採用するコンデンサの仕様を決定した。また、社内デモンストレーションではコンデンサだけであったが、製品は抵抗とコンデンサの直列のフィルターとした。これは、以前に音質検討を行ってきた経験からである。電源回路の整流ダイオードはノイズを発生するので、その対策として、フイルムコンデンサをダイオードに並列に入れるのが定石である。しかし このコンデンサに対して直列に抵抗を加え、C+Rのフィルターにすることで、音により深みが出る経験があった。試作を行った結果、それが当たった。高域と低域のバランスがよくなり、低域にも制動が出てくる。こうして基本方針が決まり、さらに抵抗の値も試聴で繰り返し確認し、最終の値を決定した。

  試作と試聴を妥協なく繰り返したがレコーダーの発売日に影響することなく、USBアクセサリーの第1号として、無事同梱品として世に出ていくことになった。

 

【写真】2013年に発売されたブルーレイレコーダー「DMR-BZT9600」に同梱されたUSBパワーコンディショナー(左)とその内部(右)

 

 

 

発売後に事件発生?!

 発売されると事件とも言える想定外の騒ぎが起こった。USBパワーコンディショナーはレコーダー(DMR-BZT9600)の付属品という位置づけだったので、電源コードやリモコンなどと同じくサービス部品(補修用パーツ)として供給された。結果、販売店などもネットショップなどでサービスパーツとして販売を行い、レコーダー購入ユーザー以外の多数の方が購入。するとオーディオマニアを発端に評判が評判を呼んで沢山売れてしまい品切れ状態に。数値としても、過去を通して付属品が本体の生産台数と比べてこれほど多い比率で出荷された例を私は知らない。

 

USBパワーコンディショナーの単独製品化

 2013年秋にレコーダーの同梱品としてUSBパワーコンディショナーが世に出ると、その後は同じタイプのUSBアクセサリーが各社から発売されるようになった。これを受け、直ぐに社内でも単独製品として発売しようという話が出たものの、過去パナソニックが明確な機能を持たない「音質向上」という目的だけの商品を発売した例は無く、営業面でハードルが高かった。

 しかし、技術者としては単独製品化への夢を持ち、アンダーグランド的に開発を継続。部品レベルから検討し、例えば双信電器の最高級マイカSEコンデンサは3年がかりで仕上げていた。

 

機能の無い商品が遂に製品化

 2017年春、最初にUSBコンディショナーを承認してくれた事業責任者が他部門に異動にする事になった。この上長は、営業部門に対して「機能が無い」という難しい商品ながらも、単品販売ができるよう交渉してくれてきたが、自分が移動になったらこの商品は世に出ることはないと思われたのか、さらに強力に企画部門に掛け合い、またそれに応じるように企画の担当者も好意的に動いてくれて、遂に商品化の決裁が下りた。こうして誕生したのが、「SH-UPX01」だった。

 ここまでして商品化にたどりついた経緯もあり、改めて絶対に成功させると決意した。自らの30有余年に渡る開発経験を捧げるのはもちろん、ここ数年に渡って部品レベルから妥協なく開発してきた自負もあった。

 3年もの期間を費やして開発してきた双信電機の最高級マイカSEコンデンサも量産の目途が立ち、遂に201711月、パナソニックから同社として初めて明確な機能のない商品が発売された。1技術者の好奇心が、ユーザーや関係者の賛同や協力を得て商品という形になったのは誠に慨深く、特にパナソニックという大会社で商品化出来たのは、上述の通り製品に関心を持ってくれた事業責任者のおかげに他ならず、有難く思っている。

 

【写真】2017年11月発売の SH-UPX01。オーディオ・ビジュアル各誌取材のアワードで受賞多数。で今もなお現行製品として発売中。

 余談だが、当時、BDレコーダーは「レコーダーは画質だけなく音質にも拘ろうと」いう風土があった。その風土を 最初に作ったのは、ほかでもない現パナソニック社長の楠見雄規氏である。同氏はBD技術から異動されたが、その際にその後任の技術責任者(USB同梱品を承認した事業責任者)に、その開発ポリシーを伝承された。それが脈々と今もBDレコーダー部隊に生きている「本物を作る魂」である。そう考えると、現社長がBDの責任者に就いていなければ、USBコンディショナーは生まれなかったかもしれない。オーディオマニアでもある現社長の音への拘りに始まり、それを継承したUSBコンディショナーを決裁してくれた事業責任者のおかげで、この商品は生まれたのである。

 

(その1 おわり。その2「USBコンディショナーと「真空管サウンド」」も近日公開を予定しています。)